2021.10.02 Twitter 300字ss お題:「宝」
さいごのたからもの
「なあなあ、これ見てくれよ」
彼が早朝から家に押し掛けてくるのは、実に十数年ぶりだ。
寝起きで薄く目を開けた私に『宝の地図』なんて眉唾物を突き付けて、彼は屈託なく笑う。そんなものに目を輝かせていた子供時代から、彼はなんにも変わらないのだ。私は僅かに目を伏せた。
少しだけ躊躇ったが、日付を確認して、結局この一日は彼のために使うことを決める。
一緒によく遊んだ裏山の細い道をひとりで踏みしめて行く。
此処から先は入っちゃいけないよ、危ないからね、なんて昔大人に言われた場所も構いやしない。ただ、地図の示すままに。
たどり着いた場所で、私はしゃがみこんだ。
湿った土を掻き、冷たい白磁の欠片を拾う。
「ようやく見つけた」
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