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2020.06.06
Twitter 300字ss  お題:「鍵」

ふたたび鍵が見つかりません。



「どうしよう」
 隣の男へ視線をやれば、無言で続きを促される。
「鍵、なくした」
「またかよ」
 間髪入れず投げつけられた応答に返す言葉はない。私が常習犯なのは事実だ。
 玄関扉の前で佇む二人は、仲良くため息をつく。
 家に入れない。

 いい考えはないかと私が首を捻っていると、なぜか男は庭の植木鉢を持ち上げた。底にガムテープで、小さな袋が貼り付けられている。中身は……家の鍵だ。
「備えあれば憂いなし、だ」
 涼しい顔で鍵を開け、さっさと家に入る彼を慌てて追いかける。
 ああ、よかった!

 ……あれ?

 そこで気が付く。
 私が鍵をなくしても、彼が持っていれば済む話。
 つまり彼も鍵をどこかに忘れてきたということじゃないか。
 うまく誤魔化された!



冷静な顔の下で焦っていたわけか。


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