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2020.05.02
Twitter 300字ss  お題:「書く」

覚悟は決まっている



 駅前のベンチに二人並んで腰掛けた。
 ずっと握っていた手を解放すると隣の彼女が俯く。
「後悔してるか」
 表情が見えないことに不安になり、思わず問いかけた。
「いいえ」
 どこぞの男との見合いの場から、先程彼女を連れ出したところだった。駆け落ちが褒められたことでないのは分かっているが、覚悟は決まっている。

 差し当たって手続きに必要なものを調べていると、彼女が自分の小さい鞄をごそごそと探り始めた。
「おい、ちょっと待て」
 目の前に差し出されたのは、夫の欄以外記入の済んだ婚姻届。
 しかめっ面でペンを受け取り、自らの名を書く。
 すべては用意周到な彼女の掌の上。
「後悔しました?」
 綺麗に笑う彼女に向かって、しねえよと吐き捨てた。


上手に転がされたらしい。


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