Twitter 300字ss  お題:「霧」
白狼の棲む森

2018.11.03


 霧深い森の奥に、一匹の狼が棲んでいた。純白の毛並みを持ち、身の丈は一里。一回の跳躍で山をも越える古の妖だ。
 彼の獣の元には、度々人の子が送り込まれてきた。
「狗神さま、狗神さま、どうかお姿をお見せくださいませ」
 今回は年若い少女だった。白く染まった景色の中、ふらふらと歩を進め、頼りない声で白狼を呼ぶ。
「貴方の肉を持ち帰れば、兄弟が飢えずに済むのです」
 肌寒い中、毛皮もまとわぬ薄着で、武器といえば木彫りの短刀が一つきり。妖退治が出来るとは思えない。
 こうして来るのは年端も行かぬ少年少女ばかり。口減らしに捨てられたと、気付いているのだろうか。
 白狼はただ様子を見ていた。霧の中で、少女のか細い声が途切れるまで。




Bad End: 白霧の刺客
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