Twitter 300字ss  お題:「食べる」
戻らない食卓

2018.10.06


 味がしない。砂を噛んでいるみたいだ。
 とっておきのご馳走だったはずなのに、どうして。
 少年はナイフとフォークを置いて俯く。

 少年――『食を司る魔人』は、毎日契約者に手料理を振舞った。満たされて丸々太った魂は、さぞ美味しかろうと期待して。
 契約者は喜んで魔人の料理を食べた。
 美味しい。幸せだ。
 一口食べるごとにそう口にして、緩んだ表情で少年に笑いかけた。
 そうして、契約の最終日がやってきた。

 少年の瞳に張った涙の膜がついにはじけて、皿の上にぽたぽたと落ちる。
「……っう、どうして?」
 嗚咽混じりの問いに答える者はない。昨日まで二人で囲った食卓の向こうには、もう誰もいないのだから。
 大切な人の魂は、仄かな塩の味がした。



口にすれば幸せになれると思っていたのに
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