Twitter 300字ss  お題:「地」
かくして地底に眠る

2016.06.04


 白衣の青年が仏頂面でカメラのフラッシュを浴びている。数多くの発見を成し遂げた若き天才は、無愛想にマスコミの質問に答えていた。
 私も報道に携わる者として、何とかコメントを拾おうと手を挙げる。
「博士、次の研究はどのようなものでしょうか?」
「……そうですね、詳細は明かせませんが、数十年単位のプロジェクトになりそうです」
 青年は初めて笑みを浮かべ、それだけを言い残すと一人で研究所の地下室に篭った。

 それから幾年も経つ。音沙汰はなく、今はもう死亡説すら囁かれなくなった。
 ……実は、私は研究所の中を一度だけ覗いたことがある。そこには、一切を処分した空洞が広がっていた。
 彼は、名声とともに地下に埋もれるつもりなのだ。



成し遂げるためでなく、無くすために数十年かける必要があったわけです。
Copyright ©2016 Maki Tosaoka