Twitter 300字ss  お題:「贈り物」
背伸び

2017.12.02


 誕生日祝いに男が寄越した贈り物は、予想に反して大人びた代物だった。艶のあるパンプスは、自分では決して選ばないような華奢なデザインで、爪先が細く踵が高い。
 初めは悪ふざけの類だと疑った。私は普段から子どもっぽいと揶揄されていたものだから。しかし、男に他意はなかったらしい。
「お前もそろそろ、そういう靴を持っていてもいいだろ」
 大人扱いに胸が高鳴った。

 本当に似合う?
 外出前から何度も繰り返した自問を、飽きずにもう一度。
 どうしても履いた姿を見せたくて無理をした。背伸びは自覚していたけれど、ぐらつく踵を叱りつけ、精一杯の澄まし顔で。
 待ち合わせに現れた男は特に表情は変えず、上出来だ、と一言。
 最高の賛辞だと思う。



欲しかった言葉が聞けて満足。
Copyright ©2017 Maki Tosaoka