Twitter 300字ss  お題:「渡す」
うかつな願い事

2017.07.01


『絶対に読まないでね』
 そう言われて渡された短冊は赤色だった。少女が一番好きな色だ。
 サインペンを握り締め、傍目にも熱心に綴っていた。
「ガキの願い事なんか興味ねえよ」
 そう答えた俺の方を、少女はまだ疑わしそうに見ている。そこまで嫌なら自分で結べばいいのに、と思ったが少女と俺では明らかに背丈が違うから、仕方なしの選択なのだろう。
 背伸びして手の届かないぐらい高い場所に結んでやると、少女は満足げに頬を緩めた。

『短冊、本当に見てないよね』
「だから見てないって言ってるだろ。しつこいぞ」
 今度こそ安堵の息を吐く少女を尻目に、内心で呟く。願い事は見たけどな。
 少女の利き手の小指側には、くっきりとペンの跡が写っている。



嘘はついてないぜ。“短冊は”読んでない。
Copyright ©2017 Maki Tosaoka