Twitter 300字ss  お題:「渡す」
魔術師の牢獄

2017.07.01


 私は、とある城に住み込みで働いている。日々の雑用をこなす代わりに、師匠である魔術師から様々なことを教わる毎日である。
 気分次第で周囲に魔術を撒き散らす彼は、本日もご機嫌斜め。その証拠に部屋が寒い。
「隠しているもの、渡してくれる?」
 こちらに向かって手を突き出す青年を前に、秘密は持てないと悟った。それでも私は無駄なあがきを試みる。
「なんのことだか分かりません」
 言った途端に窓辺の花が冷気で萎れ、彼の指が空中を切るように動いた。そして、ポケットの手紙はあっさり彼の手の中へ。
「魔術学院への入学推薦状……まさか行く気じゃないよねえ?」
 行けません。物理的に。
 凍りつき始めた戸口を前に、私は諦めのため息をついた。



説得できるなんて思ってませんよ。
関連作:魔術師の涙
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