Twitter 300字ss  お題:「かさ」
傘売り

2017.06.03


 昇降口に一つだけ、姿勢の良い立ち姿が残っていた。俺は少女の隣に並び、ざあざあと地を叩く雨音に耳を澄ませる。すぐには止みそうにない。
「傘は?」
 視線を空に向けたまま少女に問えば、ありません、とだけ。
「迂闊。朝からいかにも振りそうな空模様だったじゃん」
「気付いて登校中に購入したのですが、見当たらなくて」
「それって普通のビニ傘?」
「はい、コンビニの」
「あーあ。そういうどこにでもあるようなのはダメだって。絶対盗られたよ」
 それは困りますね、と言った口調はいつも通り穏やかだった。呑気なものだ。
「買う気ある?」
 思いつきでこうもり傘を突き出すと、少女は瞬きした。
「おいくらですか?」
「タダ」
 恩に値はつかないけど。



コンビニ傘より高くつくぞ。
Copyright ©2017 Maki Tosaoka