Twitter 300字ss  お題:「散る」
花の散り際

2017.04.01


 私の名を聞けば、皆が眉をひそめた。
「なんとまあ、不吉な名よ」
 椿――縁起の悪い花だ。形を保ったまま花が落ちる様子は、首が落ちる様を連想させるとして忌避される。少なくとも武家の姫に付けられる名ではない。
 父は私を疎んで、年の近い姉姫ばかりを可愛がっていた。姉の名は桜――誰もが、美しいと誉めそやす花。

「椿は、散らないのよ」
 そう教えてくれたのは姉だった。
「さざんかは、花びらをばらばらと落として見苦しいでしょう? 椿は最後まで美しく、咲いたまま落ちるのよ」
 そう言って美しく笑った姉はもういない。流行病に倒れ、咲かずして散っていった。
「桜は散るのよ」
 亡き姉に向かって一人呟く。
「最後まで美しく、私の記憶に残るの」



最後まで散らずに生きられるのは、貴女がいたから。
Copyright ©2016 Maki Tosaoka