Twitter 300字ss  お題:「氷」
絶対零度にはなれない

2017.02.04


「お断りです」
 友人の告白を冷ややかに切り捨てた女は、ひと睨みして踵を返した。肩を落とす友人を慰めながら、その後ろ姿を目で追う。誰にもなびいたことのない彼女。誰かが冗談交じりに『鉄の女』と呼んでいた。
 試しに落としてみよう、なんてゲスだとは分かっていても好奇心には勝てない。
「今日もかわいいね」
「は? 馬鹿なんですか」
 表向き辛辣な彼女だが、近くで見ていればよく分かった。彼女の視線が鋭く凍てつくのは、例えば体が触れたとき、顔を近付けたとき、好意を告げられたとき。要するに照れ隠しだ。
 鉄壁どころか薄氷だった。踏み抜くのは容易い。しかし、その後で溺れるのでは芸がない。
 つついているうちに落ちていたのは僕だった。



氷の上で踊るからこうなるんだ。
Copyright ©2016 Maki Tosaoka