眠る樹海堂 top

---

Twitter 300字ss　　お題：「声」

---

　今思えば、初対面で失礼なガキだった。
「大きい声、きらい」
「……そーかよ」
　目の前で不機嫌そうに頭を掻く男が、次の居候先だった。厄介だと言わんばかりの顔を見て、今回もハズレかなと溜息を一つ。
　今ならあれが困惑の表情だと分かるけれど、当時の僕は短気そうな男を分かりやすく警戒した。暴力や無視を一通り経験した僕にとって、信じられるのは己のみだったのだ。
　男はいつも仏頂面で、荒っぽくて、やることなすこと雑で――悪さをした僕をきちんと叱り飛ばす、初めての大人だった。あまりの衝撃に思わず涙ぐむ僕を見て、焦ったのが面白かった。

「大きい声はきらい」
「そーかよ」
　相変わらず雑に答える男にしがみついて囁く。
　でも、ありがと。

---

愛の反対は憎しみではありません。無関心です。（マザー・テレサ）